日生劇場ファミリーフェスティヴァル

ファミリーフェスティヴァルニュース

「遣い手の個性が、人形の個性になる」人形美術・髙橋ちひろさんインタビュー

 日生劇場ファミリーフェスティヴァルでは、世代を超えて愛される「ムーミン」の物語を、日本で初めて人形劇として制作・上演します。ムーミンの物語には、主人公のムーミンをはじめ、ちびのミイやスナフキンなど魅力的なキャラクターがたくさん登場します。
 今回の公演で人形美術を担当し、ムーミン谷の仲間たちの人形をデザインした髙橋ちひろさん(人形劇団ひとみ座)に、お話を伺いました。

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 髙橋さんが人形劇の世界に進むことを決めたのは、美大の学生時代。テキスタイルデザインを学んでいた髙橋さんは、就職活動でアパレル関係の会社数社を覗いた。しかし、その業界で働く自分がうまくイメージできなかったという。「子どもの頃、近所の人形劇団によく遊びに行っていました。面接から帰る電車の中で、ふと窓の外を見ると、たまたまその劇団の看板が目に入ってきたんです。そのとき、ああやっぱり私は人形劇がやりたいな、と思って」
 幼い頃から人形が好きだった。「自分が作ったものが動くとどうなるんだろう、と想像することが好きだったんです」。2003年に、人形劇団ひとみ座の門を叩いた。以来、劇団内外の多くの作品で人形デザインを手がけてきた。今回の「ムーミン谷の夏まつり」は、劇団外の人形劇のプロダクションで、人形美術の全体統括を担当する初めての機会となる。
(下に続く)

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 髙橋さん自身が「ムーミン」の大ファンだ。トーベ・ヤンソンによる原作の挿絵の説得力に惹かれ、また名倉靖博氏が手がけたアニメーションの色彩に魅了された。「美術家として、またムーミンのファンとして、『ムーミンたちが人形になるなら、こうあるべき』という理想が、ずっと頭の中にありました」
 しかし、イメージを実際にかたちにしていくためには、苦労が伴う。特に主人公のムーミンは、シンプルなだけに一番手がかかっている。「フォルムを優先するか、動きを優先するかの加減が難しかった。軸の位置や足の可動域など、ムーミンが可愛らしくいきいきとして見えるにはどう設計すればいいのか、工房のスタッフと何度も試行錯誤を繰り返しました」
(下に続く)

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 人形の頭(かしら)のデザインにも工夫が見られる。動く人形が喜怒哀楽の表情を見せるためには、止まっているときの顔が、できるだけ感情を取り除いたニュートラルなものでなければならない。無の表情のデザインは、能面に見られる、半開の口がヒントになっている。伝統芸能の知恵だ。髙橋さんは、デザイナーとしての個性を敢えて人形の上に表現しないようにすることも大切だと話す。「人形は、動いたときに初めて個性を持ちます。その個性を吹き込むのは、実際に操る遣い手です。デザイナーとしての自分の個性ではなく、遣い手の個性やクセ、またそれぞれのキャラクターの性格を意識しながら、一体一体デザインしています」

 人形劇を観ていると、人間と人形との境界線が取り払われ、まるで本当に人形が生きて動いているかのような、不思議な感覚に捉えられることがある。髙橋さんは言う。
「遣い手によって命を吹き込まれ、いきいきと動くムーミンたちの姿を、ぜひ劇場で観ていただきたいです」
(インタビュー終わり)


★ パペット・ファンタジー『ムーミン谷の夏まつり』
【東京】7/29(土)・30(日)  各日11:00/14:30 日生劇場
【兵庫】8/19(土) 11:00/14:30 兵庫県立芸術文化センター


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髙橋ちひろ (たかはし・ちひろ)
多摩美術大学テキスタイル学科卒業、2003年ひとみ座入団。これまでに、ひとみ座「テンペスト」、幼児劇場作品などの美術を担当。人形デザインを手がけた近年の作品に、2013年「Be My Baby いとしのベイビー」(加藤健一事務所)、2014年「日本語とコミュニケーション」(放送大学)、2015年「日本語とリテラシー」(放送大学)、「We areBorn」PV(ももいろクローバーZ)、2017年「犬の仇討ち」(人形劇団ひとみ座)がある。

イラストレーション:いわにしまゆみ

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