音楽劇『あらしのよるに』研修生稽古場ノート
2024.8.22公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]では、若手舞台関係者等の育成・研修のため、日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2024/ニッセイ名作シリーズ 2024 音楽劇『あらしのよるに』の制作現場において、公益財団法人千葉県文化振興財団からの派遣職員及び昭和音楽大学の学生インターンを受け入れております。本取り組みの一環である、研修者による稽古場レポートをご紹介いたします。
〇音楽劇『あらしのよるに』公演情報はこちら
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研修生稽古場ノート①
「子どもたちの想像力に働きかける身体表現」 研修生稽古場ノート②
「舞台の陰の立役者!演出部の仕事とは」
研修生稽古場ノート③
「作品を豊かにする音楽はどうできている?」 研修生稽古場ノート④
「舞台制作における演出助手の役割」
研修生稽古場ノート⑤
「舞台芸術作品におけるカバーキャストの存在」 研修生稽古場ノート⑥
「舞台を支える縁の下の力持ち、制作の仕事とは?」
「子どもたちの想像力に働きかける身体表現」 研修生稽古場ノート②
「舞台の陰の立役者!演出部の仕事とは」
研修生稽古場ノート③
「作品を豊かにする音楽はどうできている?」 研修生稽古場ノート④
「舞台制作における演出助手の役割」
研修生稽古場ノート⑤
「舞台芸術作品におけるカバーキャストの存在」 研修生稽古場ノート⑥
「舞台を支える縁の下の力持ち、制作の仕事とは?」
研修生稽古場ノート⑥ 「舞台を支える縁の下の力持ち、制作の仕事とは?」
昭和音楽大学
E.U 皆さんは、今まで観劇をした際に公演プログラムをじっくりと見たことはありますか?後ろの方のページのスタッフ一覧に『制作』と記載があります。この『制作』という人は、いったいどんな仕事をしているのでしょう?私自身、音楽大学で学ぶかたわら、劇団の制作もしていますが、わからないことが多く試行錯誤の日々です。「あらしのよるに」の稽古場でその業務を観察し、お手伝いをするなかで、制作は本当に多くの仕事を担っていることがわかりました。そこで制作の荒川さんに、お話を聞いてみました。 まず、制作は誰よりも早く稽古場に来て、役者やスタッフが稽古を始められるよう、いろいろと準備をしています。稽古場を隅々まで見てみると、例えば掲示してあるスケジュールが新しいものに変わっていたり、ケータリングが補充されていたり、細かいところが日々、変化しています。このことについて荒川さんは、役者が過ごしやすいように「環境を整える」ことを意識して、何か困っている人がいないか、誰が何を求めているのかなどを見ていると教えてくれました。また、全てのスタッフや役者の仲介人になっていて、翌日の稽古スケジュールや各セクションからの情報を吸い上げて全体に共有する、連絡係のようなお仕事をされているそうです。 もう一点、制作は裏側の仕事が多い中、何かお客様が目にすることに携わっているのかとお聞きしたところ、公演プログラムの作成に携わることが多いそうです。プログラムに掲載する写真や文章を取りまとめてデザイン会社へ渡し、出てきたものに間違いがないかなど確認する校正作業をします。間違いがある場合はデザイン会社に修正を依頼する、という作業を完成まで続けます。 公演を成功させるには見えないところに制作の仕事がある、まさしく「縁の下の力持ち」のような存在だということが分かりました。今後、私も自分の劇団で制作として働く際には、全体を見て臨機応変に対応していくことが必要だと感じました。音楽劇『あらしのよるに』では来場者全員に公演プログラムを配布します。手に取った際は、ぜひ、裏側のスタッフ一覧もお読みいただけると嬉しいです。 |
研修生稽古場ノート⑤ 「舞台芸術作品におけるカバーキャストの存在」
公益財団法人千葉県文化振興財団
A.M 演劇などの舞台芸術作品を上演するためには、出演者や公演に携わる人たちの健康も大切です。しかしどんなに気をつけていても、新型コロナウイルスなどの感染症を完全に防ぐことはできません。私は以前、鑑賞予定だった公演が延期や中止になってしまったという経験があります。自分が舞台芸術事業を企画・制作する仕事をしているため、そのような不慮の事態に備えるためにはどのような対策があるのかと、日々の業務の中で考えていました。音楽劇『あらしのよるに』では、主要役の体調不良に備えて“カバーキャスト”と呼ばれる方々がいます。普段の稽古では、本来の自分の役を演じていたり、稽古を見ていることが多くカバー役の稽古ができる時間は限られています。その中でどのように準備をしているのかという点に注目してみました。 ガブ役のカバーキャストを務める森山雅之さんは、稽古中こまめに台本に書き込みをされている姿が印象的です。稽古ではどのような点を意識されているのかについてお話を伺ってみました。「立ち位置の把握もありますが、ガブ役の白石さんの空気感やお芝居のやり方などを意識して、再現性をもたせることを大切にしています」と森山さんは言います。自分だったらこう演じる、という個性を出すことよりも、出演することになった場合に全体を崩さないようにすることを心掛けているそうです。実際に台本を見せていただくと、上手・下手のどちらにはけるのか、その場面で白石さんがどのようなリアクションをしているのかなどについて細かく書き込まれていました。私が稽古場にいる数日間だけでも、ガブのお芝居に加えて、アンサンブルを含めた全体での表現やステージングも常に進化し続けていることを実感しました。カバーキャストは万が一の場合にすぐに出演できるよう、そのような進化を見落とさず全体を隅々まで把握しなければならないのだと分かりました。また、ある日の稽古後にはカバーキャストが出演することになった場合のために、演出家や振付家、舞台監督など多くの人たちが場面ごとの出演者それぞれの演技や転換の変更点について細かく打ち合わせをされていました。 開演するまで何も起こらないことが一番ですが、もしもの場合に備えたカバーキャストの存在は、公演を楽しみにしていただいているお客様へ届けるためにも重要な役割を果たしているのだと感じました。 ガブ役カバーキャストの森山雅之さんの台本。細かく書き込みがされています。 メイ役カバーキャストの小山雲母さんと、ガブ役カバーキャストの森山雅之さんのカバー稽古の様子。 |
研修生稽古場ノート④ 「舞台制作における演出助手の役割」
公益財団法人千葉県文化振興財団
M.I 公演初日が近づき、音楽劇『あらしのよるに』の稽古場では、演出家の指導や役者の演技にも熱が入っています。 演出家のとなりで稽古の様子をじっと見つめるのは、演出助手の山田真実さんです。“助手”と聞くと“サポート役”を思い浮かべますが、実際に現場ではどんな仕事をしているのか、どんな役割を担っているのかは、私にとってベールに包まれているものでした。そんな演出助手の仕事に注目してみました。 「ガブとメイが目覚めるところからお願いします」稽古場に山田さんの声が響きます。指示された場面の稽古がはじまると、「ここはよい」「ここはもっとこうしよう」という演出家の発言を聞いて、山田さんがすばやく紙に赤ペンを走らせます。演出助手が大事なポイントを書き留めることで、演出家はしっかりと稽古全体を見ることに専念できる様子が見てとれます。しばらくすると、演出家から待ての声がかかり、稽古が一旦止まります。演出家が役者のもとに向かうと、山田さんもすぐさま立ち上がって後を追い、メモを見ながら一緒に話しています。その演出家に寄り添う様子が印象的だったので、山田さんに話を伺うと、「演出家と同じ目線で一緒に作品を考えること」を心がけていると言います。同時に、役者や他のプランナー、各部門のスタッフにも演出家の考えや情報を共有しており、架け橋のような役目を果たしていると考えました。 そして、演出助手は、「初日の幕を開けるために稽古を進行する人」と山田さんは言います。演出家を支えながら納得のいくシーン作りをしつつも、決められた時間内で稽古を目標地点まで着実に進行させなければなりません。本番からスケジュールを逆算して組み立て、その日の稽古の全体像をイメージして何が必要かを考えながら進めていると言います。稽古中の山田さんを見てみると、タブレットで香盤表をチェックし、パソコンで公演や稽古の動画を再生してすぐに確認できるようにしています。複数のデバイスを使いこなして、こまめに稽古の進行状況を確認しながら、稽古をスムーズに進められるように取り組んでいました。 このように、稽古場では演出家やプランナーの指示が飛び交い、時には急なスケジュール変更にも対応しなければなりません。そんな中で、演出助手は矢継ぎ早に出てくる情報をキャッチ・整理し、的確に処理することで、稽古を円滑に進める役割を担っていると考えました。 稽古を見ながら演出家と相談する、演出助手の山田さん(右) 演出家と一緒に役者に話をしています。 複数のデバイスで確認しながら稽古を進行します。 |
研修生稽古場ノート③ 「作品を豊かにする音楽はどうできている?」
昭和音楽大学
E.U 音楽劇『あらしのよるに』は、楽しみの一つとして生演奏での音楽があります。芝居の中に音楽が存在することで、物語の世界観がさらに豊かになります。音楽からは、友達になったオオカミの“ガブ”とヤギの“メイ”の楽しげな雰囲気や葛藤が伝わり、“嵐”や“吹雪”などの自然現象、森や丘などの風景が表されています。 この作品で使われている音楽は全てオリジナルのものです。作品を豊かにしている、そんな音楽がどのようにして作られているのでしょうか。音楽を担当している鈴木光介さんにお話をお聞きしました。 鈴木さんはまず、台本を読んでその作品にどんなジャンルの音楽が合いそうなのかイメージして、関連するたくさんの曲を聞いてみるそうです。そこから浮かんだアイデアや参考にした曲の「面白いと思ったポイントを大事に」作曲を進めます。自分の中で感じた「面白い」を膨らませていくことで、例えば歌のあるシーンでは歌そのものがその場の主役になるため、魅力的な表現になるように工夫するそうです。また、私たちの日常では、自分の気持ちを伝えるような音楽が突如、流れ出すようなことはありませんが、鈴木さんは「舞台では登場人物の心情を伝えたり、その場面の空気感を表す時に、音楽が違和感なく流れます。そのことが面白くて不思議」だと仰っていました。 最後に、今回は生演奏なので演奏上の工夫についてお聞きしました。「役者の芝居を受けて音楽で、自分たちも一緒に芝居をするつもりで演奏しています」。その瞬間に起きていることや流れを感じながら、音楽で芝居に応えていくことが大切なのだそうです。お話を伺って、音楽と物語がお互いに支え合って成り立ち、さらに舞台の中に音楽が溶け込んでいくのだと感じました。 劇場では客席からも見えやすいところで演奏しているので、ぜひ生演奏にも注目して楽しんでください! 場面によって多くの楽器を使い分けて演奏しています。 作曲を担当している鈴木光介さんも演奏に参加しています。 |
研修生稽古場ノート② 「舞台の陰の立役者!演出部の仕事とは」
公益財団法人千葉県文化振興財団
A.M 音楽劇「あらしのよるに」は、大小のサイズが異なる大道具を様々な形に変化させることで場面の情景を表現していることが特徴です。そのため稽古では、出演者同士のセリフの掛け合いや、身体の動きだけではなく“大道具の動き”についても同時進行で練習(稽古)を行っています。今回は大道具・小道具を扱う演出部の仕事について注目してみました。 大道具は、場面を変える役割のほかにも、観客を作品の世界へ引き込む重要な役割があります。出演者に大道具の動かし方をアドバイスしているのは演出部の方々です。初演から担当されている杉田さんに、稽古中に意識されていることをお聞きしてみました。「安全面に一番注意しながら、前回の大道具の動きを演出家の立山さんに伝えています。」とのことでした。本番の出演者と大道具の動きを熟知しているため、稽古では大道具の動かし方や位置関係を的確にアドバイスしている姿が印象的です。 また、劇中でガブが使用する「杖」や雨の表現として使われている「雨うちわ」等の小道具を扱う上で気を付けていることについて、同じく演出部の石橋さんと平田さんにお聞きしたところ、「加工を行ったりして安全面を考えていることはもちろんですが、常に出演者の方のことを第一に考えて行動しています。」とのことで、日々小道具のメンテナンスは欠かさず、使う人が負担にならないように工夫をされ小道具自体も進化を続けていることを知りました。 演出部のみなさんの働きは客席から見ることができませんが、次に何が起こるのか、小道具はどの場所にあれば使いやすいのか、全体の状況を把握しているからこそ舞台の進行を滞りなく行うことができるのだと考えます。 大道具の動かし方を出演者に伝える演出部・杉田さん 取り出しやすいよう整理された小道具 |
研修生稽古場ノート① 「子どもたちの想像力に働きかける身体表現」
公益財団法人千葉県文化振興財団
M.I 音楽劇『あらしのよるに』は、おいしい草がはえた「山」や「草原」、ちょっと険しい「谷」など、自然が舞台の作品です。そして、オオカミの“ガブ”とヤギの“メイ”が出会うのは、「あらし」の夜です。作品全体を通して「雨」や「風」、「吹雪」といった自然描写がたくさん出てきます。 この作品ならではの特徴は、皆さんが想像する照明や音響などの舞台効果に加え、アンサンブルの方たちが身体を使った動きで自然を表現することです。では、一体どのように表現しているのでしょうか。稽古場の様子をのぞいてみましょう! 立ち稽古の初日です。草原でヤギたちが草を食べている時に雨が降りだしてくる場面では、軽やかでどこか楽しげな足取りやしなやかな動きが、自然の柔らかさと優美さを感じさせます。反対に、風や雨足が強くなりあらしになっていく場面では、身体全体を大きく使ったダイナミックな表現が、自然の荒々しさを際立たせます。 このような身体表現によって、舞台上に動きや緩急が生まれ、場面をより立体的に展開させることができる効果があると考えます。形のない自然を表現するのはとても難しいと思いますが、アンサンブルの方たちはどのようなことを意識されているのでしょうか。出演するダンサーの田中朝子さんに聞いてみました。 「動きのスピードを速くしたり遅くしたり、体の重心を上げ下げすることで軽快さや不穏さといった違いを表しています」重心の変化はダンサー特有とのことです。また、人間の身体を使って表現することで、舞台を見る子どもたちの想像力を膨らませることができると言います。「画として見るのではなく、この動きはどういう表現なのか、何を表現しようとしているのかと想像できる余白が生まれます」 田中さんのお話を伺って、舞台を受け身で鑑賞するのではなく、原作の絵本と同じように、子どもたち一人ひとりの感じ方で想像して楽しんでもらうことができるのだと考えました。 ぜひ実際の舞台でも注目してみてください! 雨を演じる宮内裕衣さん。自然の柔らかさや優美さを感じるしなやかな動きです。 ダンサーの田中朝子さんと長谷川暢さん。重心を高くすることで自然の軽快な動きを表したり、低くすることで不穏な雰囲気を表します。 |