音楽劇『アヤとピノッキオの冒険』稽古場レポート
2026.8.8日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2026
観劇デビューにぴったり!大人も子どもも楽しめる期待の音楽劇『アヤとピノッキオの冒険』稽古場の様子をレポート!
音楽劇『アヤとピノッキオの冒険』が、2026年8月21日(金)~23日(日)、日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2026にて上演される(その後、岩国・千葉・熊本公演あり)。
観劇が初めての子どもたちも家族と一緒に楽しんでもらえる作品であると同時に、演劇好きの大人が観ても満足できるクオリティの舞台を届ける取り組みとして、1993年からスタートした日生劇場ファミリーフェスティヴァルは、演劇やミュージカル、バレエなど様々な作品を上演してきた。本作は、時代を超えて世界中で愛される「ピノッキオの冒険」を、歌やダンスに彩られた新制作の音楽劇としてお届けする。
転校したばかりのクラスに上手くなじめず、家でも母との関係がギクシャクしている小学生の女の子・アヤを美山加恋、そんなアヤの前に現れた不思議なあやつり人形のピノッキオをDJみそしるとMCごはん(以下、おみそはん)がそれぞれ務める。本番に向けて準備の進む稽古場を取材した。
この日の稽古は、冒険に出かけたアヤとピノッキオが、偶然立ち寄った芝居小屋で巻き込まれた大騒動をなんとか切り抜けた後、森に向かって歩き出す、というシーンから始まった。芝居小屋で燃やされそうな目にあったにもかかわらず、まるで危機感がなくのんきなピノッキオと、そんなピノッキオに呆れたり心配したりしているしっかり者のアヤ、という正反対の2人のやり取りが楽しい。美山とおみそはんが役にピッタリはまっていて、キャラクターが生き生きとしている様子が伝わってくる。
そんな2人の前にキツネ(川原田樹)とネコ(小林風花)が現れるところでは、登場の仕方を演出の野上絹代が丁寧に確認しながら進めていた。「アニメの映像から実写化された登場人物が抜け出してくるようなイメージで身体を使ってみて欲しい」と具体的な指示が出ると、川原田と小林もそれに即座に応えて動いてみせ、ユニークな表現力でシーンがどんどん色鮮やかになっていった。ダンスシーンも含めて様々な身体表現が随所にちりばめられていて、視覚的にも楽しめる。
キツネとネコがピノッキオにお金持ちになる方法を教えるナンバー「奇跡の原っぱ」では、キャッチ―なメロディーで親しみやすい歌と、コミカルなダンスに引き付けられる。身体も表情ものびやかに動き回るキツネとネコ、それに素直に反応する無邪気なピノッキオが賑やかさを創出し、対照的にアヤは自分をしっかりと持ったぶれない安定感を見せているのが印象的だ。アヤという「現実」を包み込むおとぎ話の世界、という物語の構図がくっきりと浮かび上がる。美山が、多感な年頃の少女の細やかな感情の動きを的確に表現して、物語により説得力を持たせている。
続いて、アヤとピノッキオが寒さをしのいで休むために空き家にやってくるシーンの稽古が始まった。落ち着ける場所が見つかって少し安心したのか、2人は少しずつ本音を語り出す。いい子でいなければいけない、と思っている健気なアヤと、ジェペットさんに会いたい、アヤと同じ人間になりたい、と新たな感情が芽生え始めるピノッキオの心の動きが描かれ、2人が互いを思いやる様子も伝わってきて、ちょっと切なくしんみりしつつも、心温まるシーンだ。アヤとピノッキオがそれぞれバラード調の歌を綺麗な声で歌い上げ、じっくりと聞かせる。そんな2人を、アヤのことが心配でここまでこっそりついてきたコオロギ(玉置孝匡)が温かく見守っている。野上が「コオロギは父性が目覚めている感じで2人を見て欲しい」と言うと、玉置は「なるほど、そういう感じですね!」と大きくうなずき、アヤとピノッキオを見つめる視線がまた一段と優しさを帯びていった。観客の心を代弁するようなコオロギの視点が加わることで、より物語への共感度は高まっていくだろう。

次の場面では、ピンチに立たされたアヤとピノッキオを救うために、コオロギが観客の力を借りて体を大きくするというシーン。コオロギは“虫ケラダンサーズ”を従えて、歌に踊りに大奮闘を見せる。コオロギは観客の手拍子の力で体を大きくすることができるのだが、笑いの要素を盛り込んだ力いっぱいのパフォーマンスは、見ていて心から応援したくなる。本番では客席からたくさんの手拍子が送られることは間違いないだろう。
身体が大きくなったコオロギは、キツネとネコに誘い出されたピノッキオを止めようと追いかける。森の虫たちもコオロギに加勢して引きとめようとするナンバー「引き返せピノッキオ」は、不穏なマイナー調のメロディーが緊迫感を高め、ピノッキオに危機が迫っていることが伝わってくる。それまでどこかのほほんとした空気感をまとっていたピノッキオも、このシーンでは真剣な表情を見せ、ここからどうなってしまうのか、焦燥感が掻き立てられる。
この日は、第一幕の通し稽古も行われた。コオロギによる、前説も兼ねたオープニングで観客の気持ちを引きつけた後、幕が開くとそこはアヤの小学校の教室。生徒役の出演者たちが元気いっぱいにはしゃぎまわり、子どもならではのパワーあふれる喧騒が立ち上がる。福田えりが、パワフルな生徒たちを温かく丸ごと包み込むような包容力ある先生を見事に演じていて、小学校の日常を見ているような臨場感を覚える。福田は第二幕に女神役として登場するのだが、第一幕で先生役を務めていたことを心に留めておいて欲しい。
通し稽古終了後に演出の野上が「ずっと楽しくて、あっという間だった」と述べたように、最初から最後まで飽きさせない作りとなっている。「ピノッキオの冒険」の物語を知っていても、先の展開がどうなるのかハラハラドキドキさせる脚本の妙、劇場の高さや奥行きを生かして空間を広く使った演出のダイナミックさ、高度なテクニックを使いながらも思わず真似したくなるようなわかりやすさも兼ね備えたダンス、バリエーション豊かな曲調でありながらどれも耳なじみのいい歌、演技・歌・ダンスとそれぞれに確かな実力を持った出演者たち、と本作を構成する要素はどれもクオリティが高く、ファミリーフェスティヴァルが掲げる狙いの通り、観劇が初めてという子どもでも楽しむことができ、舞台をよく見ている大人でも満足できる作品になることが十分に期待できる。中でも、本業はヒップホップアーティストのおみそはんが劇中で披露するラップは大いに“聴きどころ”となるだろう。

全体的にテンポがよく、緩急の付け方もうまいので、ずっと目を引きつけられる。各キャラクターの個性も際立っていて、それぞれに魅力的だ。作品を牽引する力を持った美山の存在感と、緊迫したシーンでも独特の柔らかい雰囲気で場を和ませるおみそはんの組み合わせが絶妙で、かわいらしさと力強さが作品の中で見事に共存している。実力派の共演者たちがしっかりと土台を支えていることも後押しして、ここからさらに作品の世界が広く深く壮大なものとして立ち上がっていくだろう。
そして、物語が進むにつれ、アヤとピノッキオをはじめ、登場人物たちがどのような成長を見せるのかも楽しみだ。9歳のアヤと、知らないことだらけで純粋無垢なピノッキオは、選択を間違えてしまうこともある。しかし、完璧な人間などきっといないし、人間は失敗することで学んで成長していく。大切なのは間違えないことではなく、間違えに気づいたときにどう行動するかではないだろうか。アヤとピノッキオの姿を見ながら、そんなことに気づかされた。
キャストがとにかく楽しそうに演じているのが伝わってくるところも好感が持てる。陽のエネルギーに満ち満ちていて、見ている側も思わず笑顔になってしまう空気感がある。実際、稽古場は常に和やかな雰囲気で、笑いもよく起こっていた。出演者やスタッフが自主的に声をかけあっている様子も多々見られ、コミュニケーションがしっかり取られている風通しのよい稽古場という印象だった。この稽古場から生まれた作品ならば、観る人の心を温めてくれることは間違いない。歌とダンスに彩られたアヤとピノッキオの大冒険を、時にハラハラしたり、切なくなりながらも、劇場でたくさんの観客と一緒に楽しく見守ることのできる本番が今から待ち遠しい。
取材・文:久田絢子
撮影:曳野若菜
観劇デビューにぴったり!大人も子どもも楽しめる期待の音楽劇『アヤとピノッキオの冒険』稽古場の様子をレポート!
音楽劇『アヤとピノッキオの冒険』が、2026年8月21日(金)~23日(日)、日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2026にて上演される(その後、岩国・千葉・熊本公演あり)。
観劇が初めての子どもたちも家族と一緒に楽しんでもらえる作品であると同時に、演劇好きの大人が観ても満足できるクオリティの舞台を届ける取り組みとして、1993年からスタートした日生劇場ファミリーフェスティヴァルは、演劇やミュージカル、バレエなど様々な作品を上演してきた。本作は、時代を超えて世界中で愛される「ピノッキオの冒険」を、歌やダンスに彩られた新制作の音楽劇としてお届けする。
転校したばかりのクラスに上手くなじめず、家でも母との関係がギクシャクしている小学生の女の子・アヤを美山加恋、そんなアヤの前に現れた不思議なあやつり人形のピノッキオをDJみそしるとMCごはん(以下、おみそはん)がそれぞれ務める。本番に向けて準備の進む稽古場を取材した。
この日の稽古は、冒険に出かけたアヤとピノッキオが、偶然立ち寄った芝居小屋で巻き込まれた大騒動をなんとか切り抜けた後、森に向かって歩き出す、というシーンから始まった。芝居小屋で燃やされそうな目にあったにもかかわらず、まるで危機感がなくのんきなピノッキオと、そんなピノッキオに呆れたり心配したりしているしっかり者のアヤ、という正反対の2人のやり取りが楽しい。美山とおみそはんが役にピッタリはまっていて、キャラクターが生き生きとしている様子が伝わってくる。

そんな2人の前にキツネ(川原田樹)とネコ(小林風花)が現れるところでは、登場の仕方を演出の野上絹代が丁寧に確認しながら進めていた。「アニメの映像から実写化された登場人物が抜け出してくるようなイメージで身体を使ってみて欲しい」と具体的な指示が出ると、川原田と小林もそれに即座に応えて動いてみせ、ユニークな表現力でシーンがどんどん色鮮やかになっていった。ダンスシーンも含めて様々な身体表現が随所にちりばめられていて、視覚的にも楽しめる。

キツネとネコがピノッキオにお金持ちになる方法を教えるナンバー「奇跡の原っぱ」では、キャッチ―なメロディーで親しみやすい歌と、コミカルなダンスに引き付けられる。身体も表情ものびやかに動き回るキツネとネコ、それに素直に反応する無邪気なピノッキオが賑やかさを創出し、対照的にアヤは自分をしっかりと持ったぶれない安定感を見せているのが印象的だ。アヤという「現実」を包み込むおとぎ話の世界、という物語の構図がくっきりと浮かび上がる。美山が、多感な年頃の少女の細やかな感情の動きを的確に表現して、物語により説得力を持たせている。
続いて、アヤとピノッキオが寒さをしのいで休むために空き家にやってくるシーンの稽古が始まった。落ち着ける場所が見つかって少し安心したのか、2人は少しずつ本音を語り出す。いい子でいなければいけない、と思っている健気なアヤと、ジェペットさんに会いたい、アヤと同じ人間になりたい、と新たな感情が芽生え始めるピノッキオの心の動きが描かれ、2人が互いを思いやる様子も伝わってきて、ちょっと切なくしんみりしつつも、心温まるシーンだ。アヤとピノッキオがそれぞれバラード調の歌を綺麗な声で歌い上げ、じっくりと聞かせる。そんな2人を、アヤのことが心配でここまでこっそりついてきたコオロギ(玉置孝匡)が温かく見守っている。野上が「コオロギは父性が目覚めている感じで2人を見て欲しい」と言うと、玉置は「なるほど、そういう感じですね!」と大きくうなずき、アヤとピノッキオを見つめる視線がまた一段と優しさを帯びていった。観客の心を代弁するようなコオロギの視点が加わることで、より物語への共感度は高まっていくだろう。

次の場面では、ピンチに立たされたアヤとピノッキオを救うために、コオロギが観客の力を借りて体を大きくするというシーン。コオロギは“虫ケラダンサーズ”を従えて、歌に踊りに大奮闘を見せる。コオロギは観客の手拍子の力で体を大きくすることができるのだが、笑いの要素を盛り込んだ力いっぱいのパフォーマンスは、見ていて心から応援したくなる。本番では客席からたくさんの手拍子が送られることは間違いないだろう。
身体が大きくなったコオロギは、キツネとネコに誘い出されたピノッキオを止めようと追いかける。森の虫たちもコオロギに加勢して引きとめようとするナンバー「引き返せピノッキオ」は、不穏なマイナー調のメロディーが緊迫感を高め、ピノッキオに危機が迫っていることが伝わってくる。それまでどこかのほほんとした空気感をまとっていたピノッキオも、このシーンでは真剣な表情を見せ、ここからどうなってしまうのか、焦燥感が掻き立てられる。

この日は、第一幕の通し稽古も行われた。コオロギによる、前説も兼ねたオープニングで観客の気持ちを引きつけた後、幕が開くとそこはアヤの小学校の教室。生徒役の出演者たちが元気いっぱいにはしゃぎまわり、子どもならではのパワーあふれる喧騒が立ち上がる。福田えりが、パワフルな生徒たちを温かく丸ごと包み込むような包容力ある先生を見事に演じていて、小学校の日常を見ているような臨場感を覚える。福田は第二幕に女神役として登場するのだが、第一幕で先生役を務めていたことを心に留めておいて欲しい。

通し稽古終了後に演出の野上が「ずっと楽しくて、あっという間だった」と述べたように、最初から最後まで飽きさせない作りとなっている。「ピノッキオの冒険」の物語を知っていても、先の展開がどうなるのかハラハラドキドキさせる脚本の妙、劇場の高さや奥行きを生かして空間を広く使った演出のダイナミックさ、高度なテクニックを使いながらも思わず真似したくなるようなわかりやすさも兼ね備えたダンス、バリエーション豊かな曲調でありながらどれも耳なじみのいい歌、演技・歌・ダンスとそれぞれに確かな実力を持った出演者たち、と本作を構成する要素はどれもクオリティが高く、ファミリーフェスティヴァルが掲げる狙いの通り、観劇が初めてという子どもでも楽しむことができ、舞台をよく見ている大人でも満足できる作品になることが十分に期待できる。中でも、本業はヒップホップアーティストのおみそはんが劇中で披露するラップは大いに“聴きどころ”となるだろう。

全体的にテンポがよく、緩急の付け方もうまいので、ずっと目を引きつけられる。各キャラクターの個性も際立っていて、それぞれに魅力的だ。作品を牽引する力を持った美山の存在感と、緊迫したシーンでも独特の柔らかい雰囲気で場を和ませるおみそはんの組み合わせが絶妙で、かわいらしさと力強さが作品の中で見事に共存している。実力派の共演者たちがしっかりと土台を支えていることも後押しして、ここからさらに作品の世界が広く深く壮大なものとして立ち上がっていくだろう。
そして、物語が進むにつれ、アヤとピノッキオをはじめ、登場人物たちがどのような成長を見せるのかも楽しみだ。9歳のアヤと、知らないことだらけで純粋無垢なピノッキオは、選択を間違えてしまうこともある。しかし、完璧な人間などきっといないし、人間は失敗することで学んで成長していく。大切なのは間違えないことではなく、間違えに気づいたときにどう行動するかではないだろうか。アヤとピノッキオの姿を見ながら、そんなことに気づかされた。
キャストがとにかく楽しそうに演じているのが伝わってくるところも好感が持てる。陽のエネルギーに満ち満ちていて、見ている側も思わず笑顔になってしまう空気感がある。実際、稽古場は常に和やかな雰囲気で、笑いもよく起こっていた。出演者やスタッフが自主的に声をかけあっている様子も多々見られ、コミュニケーションがしっかり取られている風通しのよい稽古場という印象だった。この稽古場から生まれた作品ならば、観る人の心を温めてくれることは間違いない。歌とダンスに彩られたアヤとピノッキオの大冒険を、時にハラハラしたり、切なくなりながらも、劇場でたくさんの観客と一緒に楽しく見守ることのできる本番が今から待ち遠しい。
取材・文:久田絢子
撮影:曳野若菜
